平成30年度 SSH事業「SSH総合理科特別講座」
1 目的 大学の研究者による講義を通して、最先端の研究や技術に触れる。これにより知的視野を広げるとともに科学技術
への興味関心を高め、創造的発想力と論理的思考力による「科学の方法論」を身に付け、「質の高い探究心」を育成す
る。
2 日時 平成29年6月12日(火)14:00~15:30
3 場所 (1)講座1(科学全般) 物理講義室
(2)講座2(物理分野) 物理実験室
(3)講座3(有機化学分野) 化学実験室
(4)講座4(物理化学分野) 化学講義室
(5)講座5(生物分野) 生物実験室
4 対象生徒 3年理系生徒 197名 (興味・関心・志望進路により上記のうち1講座を選択)
講座:1 (科学全般) 物理講義室(担当:井階) 講師:名古屋市科学館 学芸員 野田 学 先生 名城大学 講師(元名古屋市科学館学芸員) 尾坂 知江子 先生 題目:「学芸員の仕事とは」 |
内容紹介 (野田先生)名古屋市科学館のプラネタリウムでは、専門の7人の学芸員が毎日生で解説をしています。ほぼ毎月変わる年間12のテーマも自分達で決め、それぞれのテーマに関わる映像や演出なども全て学芸員が手作りで行っています。そのこだわりと、自分たちが大切に考えていることを、7年前の新プラネタリウムオープンの際の話題も含めてお話します。 (尾坂先生)1953年に遺伝子DNAの構造が解明され、この半世紀に「生命」の研究・技術が飛躍的に進みました。1989年、名古屋市科学館は全国に先駆けて「生命館」を増築開館し、生命科学分野の展示、展覧会や教育活動を開拓してきました。試行錯誤してきた企画を振り返りながら、学芸員の仕事の一端を紹介します。 |
講座:2 (物理分野) 物理実験室(担当:小野) 講師:名古屋大学未来材料・システム研究所 高度計測技術実践センター 教授 八木 伸也 先生 題目:「身近な商品に潜む最先端サイエンスを紐解く」 |
内容紹介 普段何気なく使用している生活用品から工業製品には、その時代で最先端のサイエンスの結果がフィードバックされています。その内容をいくつかの例を挙げて講義したいと考えています。時間が許せば、簡単な実験も体験してもらいたいと思います。 |
講座:3 (物理化学分野) 化学実験室(担当:山田哲) 講師:名古屋市立大学 大学院システム自然科学研究科 教授 笹森 貴裕 先生 題目:「有機元素化学:いろんな元素の新しい結合を創る」 |
内容紹介 私たちの身のまわりの物質のほとんどは「炭素」を主な構成元素とする有機化合物です。窒素、酸素、フッ素などの元素が含まれる分子も多いですが、基本的には炭素など第二周期元素(周期表の二行目の元素)から構成されています。では、周期表の三行目以降にある「高周期元素」は、必要ないのでしょうか?そんなことはありません。有機化合物の代表化合物とも言える「ベンゼン」の炭素原子を「ケイ素」に置き換えたモノを創ることはできるのでしょうか?元素はそれぞれ多種多様な特徴を持っていますが、研究が進んできた現在でも、まだまだ全てがあきらかではありません。各元素の個性を引き出して活用するための基礎研究として、様々な高周期元素の新しい結合をもつ化合物を生み出す私たちの研究を紹介させていただきます。 |
講座:4 (化学分野) 化学講義室(担当:藤塚) 講師:名古屋大学 理学研究科物質理学専攻 准教授 松下 未知雄 先生 題目:「有機ラジカル分子の化学から分子スピントロニクスへ」 |
内容紹介 電子は1個1個が磁石としての性質(電子スピン)を持ちますが、通常の物質中では電子が2個ずつ対となって化学結合を形成し、打ち消し合うため、その性質を観察することはできません。 遷移金属元素や希土類元素の一部は内殻にあたるd軌道やf軌道に不対電子をもつことで磁性を示し、単体で磁石となるものもありますが、典型元素だけからなる有機分子においても、価電子にあたるs軌道やp軌道に不対電子を持たせることで、磁性を発現させることが可能です。 不対電子をもった有機分子である有機フリーラジカルは、一般的には化学的反応性が高い反応中間体として認識されていますが、適切な保護により分子間の相互作用を弱めて化学反応を抑制することで、寿命が長く安定に取り扱うことが可能な分子が多数開発されています。 このような安定なフリーラジカルを材料として、磁性金属元素を全く含まない「有機磁石」や、磁場によって抵抗値が変化する「有機磁気抵抗素子」を実現してきましたが、さらに物質の性質を示す最小単位である分子1個1個を部品として、電子の電荷と電子スピンの両方の情報を利用した「分子スピントロニクス素子」を実現する研究についてお話しします。 |
講座:5 (生物分野) 生物実験室(担当:入船) 講師:名古屋市立大学 准教授 村瀬 香 先生 題目:「原発事故後に野生動物の遺伝子や繁殖行動はどう変わったのか?」 |
内容紹介 近年、野外での研究はますます重要になってきています。というのも、外来種や環境汚染など、多数の問題が次々に発生しているからです。野生動物の研究で得られた成果を紹介し、この問題について、次世代を生きる皆さんと一緒に考えてみたいと思います。 |
【生徒の感想】
〇 ただ知識を吸収するだけではなく、「なぜ、どうして?」といった探究心を持って、得た知識を使いこなせるように、今後の勉 強に取り組んでいきたいと思った。 〇 学問的な話だけでなく、探究し続けることの難しさや価値、楽しさなども教えていただいた。 〇 物の生産に、数学・物理・化学・地学等、昔からあらゆる勉学が必要であることがわかった。 〇 研究を行うには専門分野以外の知識も必要で、他人とのコミュニケーションや多分野との交流などを総合して、真の研究 となっていることが分かった。 〇 自分がやりたいと思ったことを貫き進むことが大切で、そのために妥協しないことが一番大切であることがわかった。 〇 人は「探求したい」という強い気持ちさえあれば、なんでも研究できるし、世界で新しい発見をして、自分のものにすること ができると思いました。これからの自分の進路にとても参考になっていたので活かしていきたいと思います。 〇 特に大きく変化したのは、「研究」の意義だった。 ○ この講義を聴いて、化学は身近なものであること、科学の中心であること、今習っていることは昔の人の努力の結晶であ ることがよくわかりました。確かに、目では直接見えないことが多くて難しい印象だったのですが、今日でその印象は大きく 変わりました。理科自体元々好きで、大学も理学部の中から化学分野に進みたい、もしくは名市大のような科学全般を学 ぶような大学に進みたいと思いました。この話をお聞きすることができてとてもよかったです。 ○ 私は元々理学部に興味があったので、理学での研究の詳細が知れてよかった。化学は目に見えないので理解しにくい部 分が多いと感じていたが、生活に化学があふれているのだとわかり、親しみ深く感じた。講義の中での「研究は帰納法」と いうお話が、「なるほど!」と思った。新しい観点から物事を学ぶ大切さもわかった。何より、先生が楽しそうに研究していた ことで大学での研究がとても楽しみになった。 ○ 今まで有機化学は暗記ばかりで正直楽しくないと思っていましたが、ある物質とある物質を化合すると新たな物質ができ るとか、化学は生活とつながっているというお話は大変興味深く、こういうことを考えながら勉強すると楽しくなるのかなと思 いました。今後、大学に進学し、将来学ぶことは、ちゃんと生活に生かしていけるようなことであるといいなと思うし、自分の 発見や考えがいろんな人々の心に残ったら嬉しいなと思うので、今よりもっと化学の勉強に励んでいきたいです。 ○ 高校で履修する有機化学の内容は、ほとんどがCHOの第二周期の典型元素についての勉強で、汎用性が高いことは 知っていたけど、笹森先生をはじめ、今、世界中の研究者の方々が第三周期以降(ex.Si、P、S)の研究をしていて、今まで 不可能とされてきた高周期元素の二重、三重結合を持つ化合物が次々と生み出されているということを聞いて、既成概念 にこだわらず、深く探究していく化学の醍醐味を知ることができた。自分の中では「理学」というと、何か堅苦しいイメージが あったけれども、ジゲルマベンゼンのように、高周期元素の化合物の開発や、理学がすべての学問の基礎であることを聞 いて、とても興味が湧いた。自分は化学の道に進みたいと思っていたので、とても参考になりました。 ○ 今日の講義で、今まであまり深く考えていなかった研究の意義や、研究がどのように社会や人々の生活に貢献しているか がよくわかった。また、化学という分野がどのような位置付けの学問であるかも知り、物理や医学など他の分野の基盤とい う重要な科目であり、日常生活とも密接につながっているということを改めて実感した。研究というものは99.9%失敗で、残 り0.1%にかけて、仲間とともに実験を繰り返すものという言葉が心に響いて研究意欲が高まった。 ○ 有機化学を習っていてもどのように役立っているか、生かされているのか、今までよく知りませんでした。ですが、今日の講 義で、香水の作り方の話を聞いて、こんな身近に化学が生かされているんだと知りました。そして「化学は新しいものを生 み出せる」というのが印象に残りました。今まで物理や生物の方が身近な生活から見いだすことができて、おもしろいと思っ ていました。ですが、物理、生物より、化学は唯一新しいものを生み出せる学問だということを聞いて、化学にさらに興味を 持ちました。これからもっと化学を勉強していきたいと思います。 ○ 化学は演繹法で学習するより、帰納法で学習した方がわかりやすいというのは、とても驚いた。確かに、よくよく考えてみる と、身近な事象から一般論を導くことにこそ本質があるのかなと思った。この講義を聞いて、化学は自分が思っていた以上 に奥が深く、探究してもしきれない無限の可能性を秘めていると思った。今回いただいた元素の周期表は家のどこかに貼 り付けたいと思います。 ○ 化学に対する意識がすごく変わった気がします。自分も化学は暗記するものだと思っていたけれど、実験から「どうして?」 と思ってから、いろいろ考えたり実験したりしていくのだなと思いました。この講義を受ける前までにあまり化学に対してよい 意識は持っていませんでしたが、今回で化学のおもしろさみたいなものが少し分かってきた気がします。 ○ 化学は物作りの分野であると聞き、今までの化学に対する考えと違っていて大変興味深いと感じた。また、見えないもの について学ぶという化学に対するネガティブなイメージも変わった。授業では教わっていないようなより身近な話で、大変聞 きやすかった。 ○ シリコーンで作られたコップをみて、ガラスと同じ元素が含まれているのに性質が違うものを生み出すことができ、今まで 機能化学という言葉を知らなかったが、とてもおもしろい分野だと思った。香水や、玉ねぎを切ると涙が出るといった日常生 活での現象は化学の視点で考えると説明することができるので、化学についてもっと深く知りたいと思った。汚れがつかな いようにする光触媒などの新しい機能を持った物質が私たちの生活を便利で豊かなものにしていると感じた。研究を行う上 で、大多数の人が不可能だと思っていることでも、強い意志を持って自分にしかできない研究を行うことが大切だと思っ た。 ○ 3年生になって授業で習い始め、私も、学生当時の先生のように「化学は暗記科目だから大変だなあー」と思っていまし た。しかし講義を聞いて、数ある具体例から、大前提である法則を導き出し、その中で多くの実験をしていけば、化学は楽 しいものなのではないかと思いました。また、今、私たち学生は、テストのため、入試のために化学を勉強していますが、化 学者の方々は化学を学ぶ中で、お金にならなくても原理を突き詰めていくため実験をしたりしていることを知りました。そし て、今回の講義で一番心に残ったことは、「化学は私たちの社会を創っている。私たちの身近なものは、ほとんどすべて化 学である。」ということでした。化学は私たちの生活に寄り添っているからこそ、私たちは、入試などのためだけでなく、化学 のことをもっと知り、新たな発見を多くすべきだと思いました。 ○ 理学と聞くと真面目でつまらない印象があったのですが、すべての現象の基礎を探る学問であり、生活に密着したもので あるということが分かりました。同じ元素にもかかわらず、その原子配列により性質の異なったものを作ることができる化学 の可能性には感動しました。私自身、大学に残って新薬の研究をしたいと思っていたので、今回の講義は非常に有意義な ものになりました。研究の中でうまく進まなかったり、壁に当たったりすることもあると思いますが、常に基本に戻り、多角的 な視点を持ち、壁を乗り越えられるようにしたいと思います。 |