平成29年度 SSH事業「SSH総合理科特別講座」
1 目的 大学などの研究者による講義を通して最先端の研究や技術、ものの見方に触れ、視野を広げる。科学技術
への興味、関心を高め、創造的発想力と論理的思考力による「科学の方法論」を身につける一助とする。
2 日時 平成29年6月13日(火)14:00~15:30
3 場所 (1)講座1(生物物理分野) 物理講義室
(2)講座2(物理分野) 物理実験室
(3)講座3(物理化学分野) 化学実験室
(4)講座4(化学分野) 化学講義室
(5)講座5(生物分野) 生物実験室
4 対象生徒 3年理系生徒 180名 (興味・関心・志望進路により上記の1講座を選択する)
講座:1 (生物物理分野) 物理講義室(担当:小野) 講師:名古屋大学大学未来材料・システム研究所 高度計測技術実践センター 教授 八木 伸也 先生 題目:「ナノ粒子の作製と活用先:インクからガンスクリーニングまで」 |
概 要:ここ20年近くでナノ粒子という言葉は非常に多く耳にするようになって来ました。この講義では、ナノ粒子の作製法からその活用先について触れます。活用先については直腸ガンや大腸ガンの検診に使うことを目指したスクリーニング基板への応用と、絵皿に使用するインクについて100年以上にわたるナノ粒子の活用を講義します。 |
生徒の感想 ・研究するということは,いかに多分野の知識が必要で,多方面の人と関わって,あらゆる見方が必要だと感じた。物理が主専攻であるにもかかわらず,歴史的背景に関することや,医療分野に様々に及んでいて,表面からは分からない複合的な研究内容だと感じた。 ・講義を聴いて,自分の学科に対するイメージがいかに狭かったかを思い知った。ナノ粒子とガラスのお話から,工学と医学の研究が結びつくガン発見のお話まで,驚く内容ばかりだった。 ・今までは,例えば物理関係の実験や課題の場合,物理関係従事者のみが取り組むものだと考えていたが,今回の講義を通して,様々な分野の人たちが協力することで,より深くテーマに対し追究する事ができたり,様々な視点から物を見ることができたりすることを学んだ。 ・先生がどのように共同研究をなさったかと言うことを具体的に説明されており,また,先生自身も科学と物理学を融合させて実験なさっていて,他分野との融合によって新しいものが生まれるのだということを強く感じた。 ・研究内容についてだけでなく,受験や人生についてもお話しいただき,ユ-モアも交えながらの面白い講義でした。 |
講座:2 (物理分野) 物理実験室(担当:井階) 講師:大同特殊鋼・豊田工業大学シニア研究スカラ付き招聘研究員 荒木 建次 先生 題目:「常滑の30kW太陽光発電システムはどのようにして生まれ、どんな影響を及ぼしたか?」 |
概 要:エネルギー源としては無限ともいえる太陽光。集光型ソーラー発電システムは、60年前の太陽電池発明と同時に生まれたアイデアだったが、技術的な困難から2001年まで実用化されなかった。発電素子、光学系のブレークスルーや筐体拡散放熱などの技術革新により、2003年に豊橋で発電実証に成功、2009年から4年にわたって常滑でシステム実証に成功。欧州を中心に集光セルによる太陽光発電所がたくさん始動していったが、中国メーカーによる価格破壊が進んで日欧のソーラーメーカーは大打撃を受けた。では次は何かを討議してみよう。 車載パネルを搭載したソーラーカーが自家用車の3分の2を占めるような広く受け入れられるデザインを考えよう。パネルや車はどんな条件を満たさなければならないか? 技術だけではなく社会システムや制度も含めて考えてみよう。 |
生徒の感想 ・研究開発には知識が必要と考えていたが、人と人とのコミュニケーションもとても大切であると分かった。人と人とが議論して、本気で問題を考えて解決し、新しいものを作っていくことがとても楽しいと気がついた。 ・一つのテーマで研究するにしても、他分野の知識が役に立つ。効率面だけでなく、社会的、デザイン的など多面的に考えなければ実用化にはほど遠い。どんなアイデアでも突き詰めて深く考えることが必要。不可能だと思われていたことが本当に不可能かどうかを考え、他分野の専門家と議論することも重要である。「相手を本気にさせることが重要だ」という言葉はとても心に響いたし、研究職以外でも共通すると思った。 ・技術者としてやっていくことがとても険しい道なんだと改めて感じた。自分のアイデアを他の人に伝え、試験して製品化し、世間一般に普及していくことがいかに難しいかが講義、議論、発表を通してよく分かった。相手の意見に対してツッコミを入れ、新たなことを提案する発想力、コミュニケーション能力を養っておくことが大切。 |
講座:3 (物理化学分野) 化学実験室(担当:藤塚) 講師:名古屋大学理学研究科物質理学専攻 准教授 北浦 良 先生 題目:「ナノマテリアルの話:世界一細い筒、世界一うすい膜」 |
概 要:北浦先生ご自身の進路決定の経緯を導入として、研究生活とはどのようなものかについてお話していただいた。グラフェンなど最新のナノマテリアルが実際に我々の生活をどのように変える可能性があるかなど、最新の研究成果とその応用についてお話しいただいた。 |
生徒の感想 ・研究したことが、実際に世の中の役に立つことがとても魅力的だった。 ・大学で研究に没頭することの面白さをおしえていただいた。 ・研究によって科学技術が進歩していることがわかり、自分の将来何かしらの研究をしたいと思うようになった。 ・原子レベルの世界だと、自分が普通だと思っていることも普通ではなかったので、突き詰めていくことが面白いと思った。 |
講座:4 (化学分野) 化学講義室(担当:山田哲) 講師:名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM) 教授 大井 貴史 先生 題目:「一つの分子をきちんと組み立て、新しい価値を創る」 |
概 要:私達の生活は、医薬品や調味料などの様々な有機分子によって支えられています。これらの分子の多くは化学的に組み立てられ、私達の手元に届きます。しかし、分子を組み立てる際にわずかな手違いがあると、匂いや味が変わってしまい、医薬品の場合には重篤な副作用につながることもあります。これは、有機分子が身体の中で本来の役割を果たすには、形が正確に決まっていなければならないことを意味しています。今回、化学反応を操って望ましい形の分子のみを作ることの価値と、その際に鍵となる触媒について、わかりやすくお話しできればと思います。同時に、ITbMでの研究、特に、新しい分子が秘める可能性についてお話しいただきました。 |
生徒の感想 ・大学の研究は狭い分野を深く極めるもので,他分野や他人との関わりはあまりないものだと思っていた。しかし,今回の講演で話題に上がったITbM研究所は学部学科の枠を越えた総合的かつ国際的な研究所であると聞いて,研究に対するイメージが大きく変化した。また,先生が人との関わりが大切と言われていたのもすごく印象的で,何事も自分一人だけでなく周りとの関わり合いの中で新たな発見が生まれるのだと感じた。 ・化学で,自分が学んでいたことがどのように現実世界で活用されているのかを知ることができた。ただ,どんな有機化合物を作るのかだけでなく,どのようにして作るのかということも重要で,プロセスなども様々であることを知り,興味が湧いた。また,分野,国を越えて色々な人と研究することで今まで気付かなかった視点を得ることができると思うので,私も将来,そういった人達と高度な研究をしたいと思った。何事にも基礎学力が研究者としての勘を育て,センスを身に付けると思うので,勉強には常に疑問を持ちながら追究していくような姿勢で臨みたい。 |
講座:5 (生物分野) 生物実験室(担当:小島) 講師:自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理研究部門 助教 坂本貴和子先生 題目:「噛むことの脳科学」 |
概 要:「ヒトとはなにか」がただ知りたくて研究をされてきた先生は、もともと歯科医師なので、ヒトを知る手がかりとしてまずは「顎口腔顔面領域の機能」を知るところから始められました。ヒトは食べ物を食べる時、口に入れたものを長く噛み続けることができますが、ヒトの噛む機能とはまさに「ヒトならではの機能」と言える。ヒトの噛む機能が進化の過程でなぜ獲得されたか、そして現代の我々にどのような恩恵をもたらしているのか。顎口腔顔面領域から垣間見えた「ヒトとはなにか」についてお話をしていただいた。 |
生徒の感想 ・講師の先生が歯医者から脳研究に移って、さらにまた、歴史の著作に進まれるというように、いわゆる『道』は一本ではないということを改めて知り、自分は、研究に対して興味はあるが躊躇する部分があり、悩んでいたが、寄り道をしても寄り道ではないというように考えられるようになった。 ・「人類が絶滅したら次に大きな存在になるのはヒトから遠く離れた種の生物であろう」とのお話がとても興味深かった。やや逆説的な論理でしたが、説得力があった。 ・今、当然と思っていることでも、もしかしたら間違っているのかもしてない。最近の研究はそんな常識的な事柄に疑問を抱いてからスタートして、常識を覆す発見にいたすケースが多いということが印象深かった。 ・「人類は弱かったから、進化できた。」という命題が印象に残った。 ・「噛むこと」と「進化」がどのように繫がったなど考えもしていなかったので、研究とは素朴な発想をいかに導き出すのかというが大切であると認識できた。 |