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SSH事業 「数学 夏の学校」

「数学 夏の学校」実施報告

 「数学 夏の学校」として,夏季休業中に開設している講座で,今年度で9年目になります。対象は、本校生徒及び尾張地区を中心とした中学生・高校生・教員で,純粋数学から応用数学まで,数学好きにとって魅力ある9講座を開講しました。本校生徒以外の参加者も多く,今年は中学生178名,高校生76名の高校生の参加がありました。 以下に,講座内容の紹介と,受講後の参加者の特徴的な記述を掲載します。

講座番号:1 「集団での追跡と逃避」
実施日・会場: 7月23日(火) 愛知県立明和高等学校
参加者: 本校生徒 1年生21名     外部参加 中学生10名  高校生4名  教員3名   総計42名
講師 : 大平 徹 先生(名古屋大学大学院多元数理科学研究科教授)
内容:「追跡と逃避」について,歴史的背景や,具体的な研究の紹介などを中心に講義が行われた。簡単な2次元の話から3次元へと話は発展し、鳥や魚の群れの動きを,ボイド(引き離し・整列・結合という3つの動作規則を与えることで、動物の群れを再現したシミュレーション)と呼ばれるコンピュータ上で表現した生命体にも話がおよんだ。また,他にも、自動車の渋滞発生のメカニズム、白血球が異物を追いかける仕組み、バランス制御の実験映像をもとにした「遅れ」について,動画を見ながらわかりやすい説明がなされた。これらのような現象を数理モデルによって解析する研究は、実用性の高い様々な分野への応用が期待されていることを改めて感じられる講義内容であった。
参加者の感想
・数学というと公式にあてはめて答えを求めるものだと思いがちだが、今日の講義を通して、数学の考え方を日常生活へ広げるだけで、身近なものにつながっていくことを実感することができた。数学のイメージが変わった。
・魚や鳥の群れなど、数学に全然関係なさそうな光景を数学的な観点から説明しようとしていて、数学を身近に感じることができた。
・ノイズは邪魔なものというイメージが強かったが、それをあえて加えることで必要なものをあぶり出せることには驚いた。余計なものを有効活用することが驚きだった。

講座番号1
講座番号:2 「素数 ゼータ関数 多重ゼータ関数」
実施日・会場: 7月26日(金) 愛知県立明和高等学校
参加者: 本校生徒 1年生28名  2年生5名     外部参加 中学生16名  高校生16名  教員4名   総計69名 講師 : 松本 耕二 先生(名古屋大学大学院多元数理科学研究科教授)
内容:◇はじめに、ブラックホールの周りの降着円盤とジェット、太陽のフレア、台風、ジェット機の作る渦、車の空気抵抗、美味しく炊ける炊飯器など、具体的な流体力学の応用例があげられた。次に、天気図や二次元の渦の運動について説明があり、ベクトル場のイメージが紹介された。また、微分方程式の意味についても、ベクトル場の立場から説明があった。流体の運動を数学で記述する研究であることがよく分かり、流体力学の世界を堪能できる講義であった。
参加者の感想
・今まで習っていた数学では問題を解くことに気が向きがちだったが、今回の講義を受けて考えが少しかわった。なぜその式がになるのか、その式が何を表しているか、を考えることに価値があることが分かった。
・数学は難しいけど、理解できると面白いし楽しいとあらためて思った。数学は将来必要のないものと思いがちだったけれど、昔から数学の考え方があったということから、数学がないと文明は発展しなかったのではないかと思った。
・数学に対する上で一番重要なことは、数学が好きであるか、ということ。センスが全てではなく、むしろ地道さが重要であるという話を聞けた。
講座番号2
講座番号:3 「ブラックホールの数理」
実施日・会場: 8月1日(木) 愛知県立明和高等学校
参加者: 本校生徒 1年生30名  2年生7名     外部参加 中学生25名  高校生13名 教員3名   総計78名
講師 : 白水 徹也 先生(名古屋大学大学院多元数理科学研究科教授)
内容:タイムリーな話題であるブラックホール影の半径を、分かりやすい動画を使いながら紹介し、参加者の興味をひきつけていた。また、アインシュタインの天才的な発想の等価原理の思考実験の話や時空の概念の変更の話を糸口にして、ブラックホールの存在の予言への道筋を、エッセンスを押さえながら示していった。講義は、アインシュタイン方程式がブラックホールの存在を予言することを示して終わったが、その後の質疑応答が盛り上がり、マルチバースの可能性やワームホールが存在する可能性も数式は示唆していることに、参加者は驚きを隠せない様子であった。
参加者の感想
・世の中の出来事を解明して周りの人にその仕組みを理解してもらうために、数学を用いる必要があることを、今回のブラックホールについての話を聞いてわかった。
・正直、数学は日常生活で活用できないと思っていたが、物理など自分が知らないことを数式で解き明かすことができるということを知ることができた。もっと数式をいろいろな日常生活にあてはめてみたいと思った。
・私にとって数学は、ただ公式があり、ただ計算するだけのものでしたが、万有引力やブラックホールなど、宇宙のことを数式で表現できることに驚いた。
講座番号3
講座番号:4 「ゲーム理論」
実施日・会場: 7月25日(木) 愛知県立明和高等学校
参加者: 本校生徒 1年生32名  2年生1名     外部参加 中学生34名  高校生14名 教員8名   総計89名
講師 : 花薗 誠 先生(名古屋大学大学院経済学研究科教授)
内容:「ゲーム理論」とは、二人以上が意志決定を行う状況において最適な方法を選択するための理論である。まず始めにNOT 100というゲームの理論を学び、HEXというゲームを実践した。HEXには引き分けがないことや、後手必勝法が存在しないことを数学的に証明した。4手のじゃんけんやウルトラマン(3手)とバルタン星人(2手)のじゃんけんを通じて最適戦略の概念を学んだ。この際使われるマキシミン戦略がサッカーのPK戦などの実生活に用いられていることが紹介された。ゲーム理論は勝敗の決まる2人の対戦型ゲームにとどまらず、勝敗に関わらない利害関係や社会状況の分析に有用であることがわかった。数学が社会科学の問題分析にも役立っていることを知ることができ、大変興味深い内容であった。
参加者の感想
・数学は、一方面のみを見てその利害関係や情報を整理することが中心であると思っていたが、いくつもの面を同時に考えることで新しい見方を作ることができることを知った。
・数学で使われる理論が、スポーツや交通経済にも応用出来ることを知って、数学を勉強する意味を見いだせたような気がした。
・数学を使い、社会について考えられることを初めて知った。数学が経済学の話にどうつながっていくのか予想出来なかったが、しっかりつながっていてとても面白かった。今日学んだことをこれから活かしていきたい。
講座番号3
講座番号:5 「トランプのシャッフルの話」
実施日・会場: 8月9日(金) 愛知県立明和高等学校
参加者: 本校生徒 1年生29名  2年生2名     外部参加 中学生34名  高校生4名 教員8名   総計77名
講師 : 伊師 英之 先生(名古屋大学大学院多元数理科学研究科准教授)  
内容:参加者を3グループに分け実際に手品をして見せることで参加者との距離を近くし、質問等もしやすい和やかな雰囲気で始まりまった。その後、リッフル・シャッフル(2つの山に分けて左右の手でパラパラとはじきながら1つの山にする)では、ある回数を境に「混ざりあっている状態」が急激に変化するカットオフと呼ばれている現象を数学的に示した。リッフル・シャッフルを数列で符号化し上昇列に着目するアイディアが説明され、さらに「混ざり具合」の数式化など、身近なものをモデル化して興味深い結果が得られ数学の面白さが凝縮された講義であった。高校1年生ではまだ学んでいない内容があり少し難しいところもあったが、今後授業で学んだ際に補完され数学に対してより興味が湧いてくると思われる。
参加者の感想
・トランプはあくまでゲームなので、数学とのつながりを考えたことはあまりなかったように思う。ところが、自分なりにトランプゲームを考えてみようと思ったときに、いつのまにか自分が数学の知識を利用して考えていたことに気がついた。
・「組合せ」や「順列」など授業で習った考え方を使っていて、そう考えればよいのか!この考え方をそうやって利用するのか!などと驚くことが多かった。授業で習ったものを「トランプのシャッフル」という身近なものに利用できたので、とても興味をもつことができた。
・トランプは3回くらいシャッフルすれば混ざると思っていたが、数学的な考え方で、混ざりやすいシャッフルの回数の存在が説明されることに驚いた。数学を使って分かることが多々あることに気がついた。
講座番号5
講座番号:6 「連分数とフォードの円」
実施日・会場: 8月5日(月) 愛知県立明和高等学校
参加者: 本校生徒 1年生22名  2年生4名     外部参加 中学生11名  高校生11名 教員3名   総計51名
講師 : 糸健太郎 先生(名古屋大学大学院多元数理科学研究科准教授)
内容:はじめに、連分数の表記の仕方について紹介があり、その図形的な解釈について説明があった。A4用紙を折って正方形を作っていく作業から√2 の連分数表記に迫る実習の後、黄金比φへと講義は進んだ。また、フィボナッチ数列と黄金比との関係について、ひまわりの種の並びを利用して説明した後、ファレイ和とフォードの円へと発展し、√2 や黄金比φとの関係についての説明があった。
  無限に続くシンプルな数字の並びと、黄金比や白銀比が図形的にも関連していることに参加者は驚いていた。実習が多かったこともあり、楽しみながら数学の世界を堪能できる講座であった。
参加者の感想
・連分数の図解やスライドで見たフォードの円がわかりやすかった。A4用紙を実際に折ってみたり、ひまわりの種を数えてみたりすることで、自分の身の回りに数学があることを実感できた。
・違う単元の事柄に見えても、全てつながっているのだと感じた。フォードの円の途中で連分数に戻り、フィボナッチ数列や黄金比が現れたときは、「ああ!ここにつながっている!」と感動した。
・連分数、黄金比、フォードの円など一見関係ないようなことにもつながりがあり、面白かった。また、連分数については少し知っていたが、それに図形的な意味があることを知ることができて良かった。
講座番号6
講座番号:7 「グラフ理論入門 Introduction to Graph Theory」
実施日・会場: 7月31日(水) 愛知県立明和高等学校
参加者: 本校生徒 1年生27名  2年生3名     外部参加 中学生4名  高校生5名 教員5名   総計44名
講師 : 藤江 双葉 先生(名古屋大学大学院多元数理科学研究科准教授) 
内容:本講義は、今年度の夏の学校の中で唯一の英語による講義である。グラフ理論とは、点とそれらを結ぶ辺で表されるグラフの様々な性質を分析するものである。講義の前半ではグラフ理論の歴史に触れつつ、用語やHandshaking Lemma(握手補題)についての説明と、ある二つのグラフが同型であるための条件についての講義であった。後半では、Petersen graph(3-regular,order10のグラフの中でも特別なグラフ)はtraceable graphであるがHamiltonian graphではないことを証明した。本講義は、グラフ理論という中学校や高等学校では学ばない数学の分野に触れる良い機会となった。
参加者の感想
・グラフをグループに分けたときに、多数の視点から共通点や相違点を見つけることが、楽しく感じられ興味をもった。
・英語で数学を表現するときの言い方などを初めて知って面白いと思った。今回、時間内に出来なかったところを、別の考え方でもう少し考えてみたい。
・英語による講義だと知らずに申し込んだので、英語による講義だと知ったときはかなり不安になった。参加してみると、説明がかなり丁寧で分かりやすく、例を出しながら手を動かしながら説明して下さったので、おおむね理解することができ楽しかった。
講座番号7
講座番号:8 「対数と計算尺」
実施日・会場: 8月8日(木) 愛知県立明和高等学校
参加者: 本校生徒 1年生27名       外部参加 中学生8名  高校生4名 教員1名   総計40名
講師 : 服部 展之(愛知県立明和高等学校教諭)
内容:指数の拡張、対数の定義と対数法則の説明があり、常用対数を利用した近似値計算の演習に挑戦した。その後、計算尺を使った近似値計算を体験し、両者が一致することを確認した。計算尺自体は過去の文化遺産であるが、かつての人類の知恵に触れながら、理屈を理解することの大事さを学ぶことができた。また、アシスタントのSSH部数学班の生徒が要所で解説を行い、参加した中学生にとっても良い刺激になった。
参加者の感想
・計算尺にはじめて触れたから、少し使うことが難しかった。しかし、昔の人がこれを実際に使っていたと思うと、もっと色々な計算を試してみたくなった。足す、引く、掛ける、割る以外の計算が、電子機器でないもので計算出来ることが面白いと思った。はっきりした数値が出ないことも、計算尺の良さだと思った。
・問題の解説や法則の証明を行うことで、対数についての理解が深まった。また、数学を学ぶときには、ただ公式を覚えるのではなく、それを発見した数学者たちのことも学びつつ、数学について考えることが大切だと気がついた。
・教科書には書いてないようなことを学んで、数学の歴史などについて知ることができた。戦前、計算尺が兵器の開発にも使用されたことを知り驚いた。
講座番号8
講座番号8
講座番号8
講座番号:9 「江戸時代の数学」
実施日・会場: 7月29日(月) 愛知県立瑞陵高等学校
参加者: 本校生徒 1年生21名       外部参加 中学生36名  高校生5名  教員10名   総計72名
講師 : 深川 英俊 先生(名古屋大学非常勤講師 和算研究家)
内容:前半は、江戸時代に庶民が楽しみながら数学を楽しんでいた様子について紹介された。中国輸入の「算木」やそろばん、「塵劫記」の、木の高さ、人の容積、油分け算、ネズミ算などの中高生にも理解しやすく興味深い内容について説明があった。後半は、日本各地の神社に奉納されている算額の初等幾何問題について、美しい実物大の算額(レプリカ写真)を披露しながら、文化遺産としての和算についての紹介があった。美術と数学のミックスが算額であるという言葉が印象的であった。江戸時代の日本の数学のレベルの高さと、楽しみながら数学の問題に取り組んでいた様子が良くわかり、たいへん感動できる内容であった。
参加者の感想
・江戸時代に作られた算額に多くの外国の人々が注目していることから、日本の数学は西洋の数学と同じくらい高度であったことがわかった。名前も知られていないような数学者が作った算額が、現代の数学者を魅了していることがすごいと思った。
・江戸時代など昔の女性はあまり勉強していなかったと思っていたが、算額を奉納する女性もいるということを知って驚いた。
・江戸時代に日本中で数学の難問を作っていたことを知り、数学はどの時代もどんな人でも楽しめるものだとわかった。高校で学ぶ、ユークリッドの互除法や三角比に近いことを、昔の人も同じように考えていたことが興味深かった。
講座番号9